12.酒大好きブツブツ

銀座のオンナ

101127001_2 銀座の女は綺麗だ。他のどの街とも違う。銀座の女だ!

 いかにも銀座のママさん達をたくさん知っているような事を書き始めたが、設計事務所はそんなに甘くない。東京の優良企業の幹部さんなら数時間分の人件費で飲める酒も、我々にとっては1ヶ月分の売上だ!

 でも、銀座の女が綺麗だという感想はウソじゃない。一人で東京へ出張という時は、必ず銀座を歩く。あくまで【歩く】。なんとなく、自分のどこかのスイッチをリセットするために・・・。

 もう20年も昔、社会人1年目、現場監督としての初めての現場が銀座5丁目。社会人としての心得もなく、建築学科を卒業したと言っても建設のイロハもさっぱりわからないそんな坊主が、大人のあこがれの地のような【銀座】にいきなり派遣された。

 しかしそこは、砂まみれ埃まみれの建設現場。背中にモンモンつけたオッサン達の文句を聞き、元暴走族さん達の暴走自慢を聞きながら、自分でもよくわかっていない現場指示をその恐い人たちにする。

 101127006「どういう意味だぁ?お前何言っているんだぁ?」という言葉に顔面蒼白になりながらも、負けるわけにはいかない。仕事とは、きっとこういうものなんだ・・・。毎日の一瞬一瞬が緊張の連続の中、私は銀座・・・、いや裏銀座に育てられた。

 夜の銀座じゃない、昼間の銀座。ビルの中でなく、アスファルトの上でなく、地表下17mの泥の中、地上数十m上空の幅10cmの鉄骨の上。毎日必死になって覚えたのは、建設に関する知識だけじゃない。人間関係の作り方、人に指示をする方法、死なない事、ケガしない事。

 夜の銀座ももちろん歩いた。現場の朝は早く、現場監督の夜は遅い。帰りはいつも、銀座の生命エネルギーが120%の勢いで盛り上がる時間。その時銀座の女は・・・、銀座を歩く女達は、綺麗だった。

 今の銀座とは、もう、ちょっと違うのかもしれないが、銀座の街を歩く女性は、いつもより2mmだけ背が高い。いつもより2cmだけ歩幅が広い。いつもよりほんの少しだけ歩く速度がゆっくり。そんな気がした。

 心なんだと思う。銀座を歩くという気持ちが、自分自身を引き締める。自分自身を1段上に置きたくなる。優雅であろうとし、大人であろうとする。背筋が伸び、ヒザをキレイに伸ばしてゆっくりカカトつけるように歩く。そんな姿勢が、銀座の女を綺麗にしているんだと思う。

101127002 一人で東京に出た時は、必ず銀座を歩く。凛としたその女性達を見て、自分自身の気持ちも引き締まる。この街で教えられたのは、仕事の事、大人としての自分の事。

 先週、東京出張へ。ビックサイトでの大きな展示会。新しい建材の知識を入れ、いくつものセミナーにも参加。ただしもう一つの目的は気分転換。自分をリセット。銀座を歩き、銀座の酒を飲みたかった。

101127004  気分転換ごときで銀座の酒を飲むためは、こんな地方の小さな自営業者としては、それなりの努力が必要。往復は深夜バスで0泊3日、車中2泊。朝飯はアンパンとコーヒー。昼は会場のランチセットで、夜は新橋の吉野家の牛丼!

 さすがに銀座での現場作業員だった経験から、夕飯に行きつけだった安い中華を目当てに歩きだした。心はすでに、回鍋肉かチャーハンか・・・。

101127005 ところが2件あった目当ての中華店が両方とも無いじゃないか・・・!!つぶれてた・・・。王子製紙の裏にあった【天下一】の回鍋肉。コンパル通りにあった【味の一】の焼き飯。特に「味の一」は、ボロボロの普通の中華屋なのに、完全な【銀座のママ!】的な、とびっきり綺麗な中年のママさんがいて、とても人気の店だったのに・・・!まっ、あれから20年、中年のママじゃなくなったからかな・・・。 

 そこで探したのが、その頃同僚と一緒に飲んだ後よく行った吉野家・・・。あるんだなぁ、まだ・・・!ただし、280円の牛鍋丼はない・・・。銀座・新橋のコストには、合わないんだろうか・・・。

101127007101127008 お目当ての酒場は2店。一つはステラ。以前にも書いたが、東京での現場監督時代に通い詰めたショットバー。お酒も覚えたが、入れ替わり立ち替わりやってくる銀座ならではの変わり客達から、さまざまなお話を聞いたっけ。

 今カウンターの中に立っている若いバーテンも、少し昔の話をしただけで、ちゃんと私をエスコート。あの時代を少しだけ思い出す事ができて、いい気分にしてくれた。

101127009_2 二つ目の店は、ラルゴ。ステラでとてもお世話になったバーテンが、もう10年以上も前に自分の店をもった。銀座は彼の2軒目の店。とても隠れ家風で、やってくる客は常連ばかり。彼とは昔、公私共によく飲んだ。

 銀座の女は、平日の夕方からがいい。その時間に銀座を歩ける女性の品もいいが、夜のお店に出勤する女性も一味違う。

 2mmだけ高い身長をもつその女性達は、日本の中枢を動かす人々の束の間の幸せを作り出しているプライドを持ち、だからといって、気づかいのある女性的なしぐさを忘れない。

 まっ、なんのかんの言っても、深夜バス使って牛丼食って節約しても、そんな銀座の女のいるお店で飲めるわけではなかったか・・・。これからまた、頑張ろうっと・・・!

1011270010  おっと、そう言えば、今回も銀座4丁目交差点にある【キムラヤのアンパン】の前まで行ったが、またアンパンを買わなかった。実はこれ、20年前から悩んで、いまだに買えていない・・・。たかが140円のアンパンなのに・・・。その頃、わざわざ銀座でそんな高いアンパン買うなんて、考えられなかったのだ!

 しかし、よく考えたら、この日の朝食べたプロントのアンパンは、160円だったじゃないか・・・!何をやっているんだ俺は・・・。銀座で大人になったハズなのに・・・・・ブツブツ・・・・・。

 どっちのアンパンの方がうまいんだろう・・・・・・・。

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アバンティ

081110001_5  サントリー・サタデイ・ウェイティングバー【アバンティ】。

 麻布仙台坂にあるイタリアンレストラン「アバンティ」のウエィティングバー。週末の夜ともなると、各界の有名人達がぞくぞくと集まる。バーテンのスタンと一緒に彼らのおしゃべりに聞き耳を立てる。至福の時を楽しめる最高のバーである。

 もちろんこれは、実在のバーではない。土曜の夕方5時、東京FM系で放送されているラジオ番組。結構有名な番組だから、知っている方も多いだろう。超都会的で、トーキョーの匂いプンプンで、出来過ぎな程カッコイイ。東京には、こんなバーがいくつもある。

081110004 学校を卒業して東京で大手建設会社の現場監督として就職した。と言っても駆け出しの頃は、朝から晩まで汗と砂ぼこり・土ぼこり・鉄粉ぼこりでドロドロになり、休みも少なく、朝は6時に寮を出て、夜は毎日午前様。それでも月に2,3回、無理やり時間を作ってこんなバーに通い続けた。初めての現場が銀座ど真ん中だったのがきっかけで、父に紹介された銀座8丁目、すずらん通りにあるショットバー【Stella(ステラ)】。子供が行くようなバーじゃない。大人のバーである。

 店長の稲さんは、この世界では少々有名なバーテンダーらしい。もう初老といえる年齢で、なかなか自分では振らなくなっていた。ただこの人目当てで、いろんなお客がやってくる。大手広告代理店のトップ、銀座の高級寿司屋の社長や、開業医の兄弟、謎の紳士、etc…

081110003081110002 田舎者で、酒だって全然わからないガキの私に、稲さんも他のバーテンダーも皆優しかった。ガキが一人でカウンター席に座る。バーテンダーが静かに注文を聞いてくれる。常連にもなると、以前に話した内容を全部覚えていて、とても良い話し相手になってくれる。誰か客人を連れていくと、そっとエスコート役の私のフォローをしてくれる。

 一人でカウンターに座っていて話しかけてくれるのは、バーテンダーだけではない。隣に座る見ず知らずの人と語らい合いが、また楽しい。いろんな人がいる。人って面白い。

 ある時、なにかの理由で水曜の夕方6時にステラへ行った。外はまだ明るい。もちろん他に客はいない。するとすぐに店の前にタクシーがとまり、二人づれの客が入ってきた。一人は70歳を越える老人で、もう一人はその人を会長と呼ぶ40代半ばの女性。二人ともとても身なりの品が良い。どういう関係なんだろう。稲さんが、注文を聞くでもなく、老人にウォッカトニックを差し出す。もう何年も前から(いや何十年も前から?)、毎週水曜日の夕方6時に、ウォッカトニックを一杯だけ楽しむために、タクシーでやってくる常連客なんだとか。

081110009 東京でまだ初々しいガキにとって、こんなバーで、こんな一風変わったカップルに出会うだけでもドキドキするような出来事。ところがこの老人、実は10秒に一回、喉を「カ~!」と鳴らす。「カ~、カ~!」。どうも慢性的に喉に痰が絡んでいらっしゃるようだ。「カ~、カ~」!!

 【すすめ!パイレーツ】という江口寿史のコミック漫画で、パイレーツのオーナー田吾作さんが「カ~、カ~、ペッ!」とやる。それとそっくり。こんなカッコいいバーで、毎週一回同じ時間にタクシーで、ウォッカトニックを一杯だけ飲みに来る紳士なのに、失礼ながらそこだけが、すごく間抜けだ!だから人のいない早い時間にくるんだろう、きっと。

 しばらくして声を掛けてくださって、ウォッカトニックを一杯ごちそうしていただいた。すごく、すごく大人の味がした。お話もとても紳士で、素晴らしかったのを覚えている。カ~!!

 銀座で最も繁盛しているという高級寿司屋の社長さん。見かけるたびに、数人の女性と一緒。話し上手で、彼の席はいつも盛り上がっている。「じゃぁ、ドンペリ飲むか?」≪えっ!ショットバーでドンペリですか・・・?≫ まだドンペリが、1本3万とか5万とか言っていた時代である。その会話をカウンターの3つくらい離れた席からボーッと見ていたら、「どうぞ!」って、グラスに一杯【ドンペリ】が注がれた。生まれて初めて飲んだ【ドンペリ】。美味いんだかどうなんだか、わかりません!帰り際に【ボトルにあまったドンペリ】、くれました。まだ若かったので、素直に「ありがとうございます!」って言えました。

081110010  常連になると、なぜかカウンターの端の席に座りたくなる。今日はいつもにもまして混んでいるが、うまく端の席が開いていた。隣に座っていたのは、これまた初老の紳士だった。しばらくはお互いが別々にバーテンダーと会話する。お酒がまわってくるとお隣同志、お友達になる。高級そうなスーツがビシッと決まった紳士だ。その点、最近の私はネクタイも締めてないし、ネルシャツとボロジーンズのまま銀座のバーで飲んでいる時もある。なんか店に申し訳ない・・・。

08111011  紳士の話をよく聞いていると、イギリスの貴族の城のようなお家に招かれて飲んだお酒の話のようだった。次元が違いすぎて、はじめは意味がわからなかった。貴族の彼らだって、おいしいお酒とおしゃべりが大好きなんだ、なんて話だったような・・・。しかし、この紳士は、なんでこんな若造にそんな話をしているんだろう。

 バーとは、人を癒してくれるところ。一人一人にとっては特別な隠れ家のようなところなんだけど、いろんな人を分け隔てなくもてなし、心の疲れを取ってくれる。すると、そこに来る客同士からも、次第に隔たりが無くなっていく。

 そんな時間と空間を演出するバーテンダーは、ただの酒出し名人なんかじゃない。プロだ。建築家として、いや人として、そんなバーテンダーのようになりたいと思う。人の心が安らぐような人でありたい。人の心が安らぐような仕事がしたい。人の心が安らぐような建物をつくりたい。

081110006081110005 東京から離れて長くなり、そんなバー【ステラ】の常連客もバーテンダー達も入れ替わってしまったと聞く。今私がお勧めなのは、同じく銀座8丁目にあるショットバー【Largo(ラルゴ)】。そこのオーナーバーテンダー石原さんには、実は【ステラ】時代、とてもお世話になった。

081110011_2 もう、なかなか行けない東京だけど、久しぶりに顔を出しても昔の話をちゃんと覚えていてくれる人がいる。今も変わらず私を癒してくれるバーテンダーがいる。私にとっての最高のサービスがそこにある。 

   

  

BAR STELLA;

http://bar-navi.suntory.co.jp/shop/0335722058/index.html

BAR LARGO ;

http://bar-navi.suntory.co.jp/shop/0355372482/index.html

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