坂の上の教会
暑い々々その日、坂の下から見たその建物は、10年前から何も変わらぬたたずまいで、静かに座っていた。あれから10年が経ったのか・・・。
日本の高度経済成長の一端を担った製鉄の町、八幡。20世紀の新日鉄の栄華を見下ろすような丘の上・・・。久しぶりにやってきた。
この街には妻の実家もあり毎年来ているんだが、いつもギリギリの日程の中で、なかなかこの丘に立つ事が出来なかった。
実は、隣接するホテルの一施設であるその教会は、わたしの修行中の担当建物。設計は、師である豊川裕子。
こんな形・・・成り立つの・・・?なんて、完全に素人だった・・・。大手の建設会社で現場担当をしていた経験は、逆にこの面倒そうな形状に、現実性を考えられない体質になっていた。
楕円形の平面に、木の葉で斜めに屋根を掛けたような建物。あくまで優しく、自然から出た簡素な建物であるように・・・。
色とりどりの花の咲くエントランスは、南。祭壇のある正面は、北に・・・。
北の真っ青な空に向かって大きなガラス張りとし、そこに鉄の町八幡を象徴する鉄骨の白い十字架を組込む。
東面は、この建物の形状を決める事になった既存のプールに対してオープンにする。
西面は、西日を避ける為に窓を小さめとするが、北九州の街の樹である【イチイの樹】をモチーフにしたステンドガラスを埋め込む。
内外の壁が厚み10cmもある石貼りである事から、それを支える為に、厚さ30cmにもなるコンクリートの壁が下地となっている。
楕円形という形状と屋根の形から、梁や柱を計画出来ないので、屋根の厚みも確か30cmにもなるコンクリートの塊だったハズ。
それをふわっとした木の葉が、石で囲まれた簡素な教会の上にそっと舞い降りたような、軽い様相に仕上げる・・・。実は、どんでもない難しい条件だった。
商業建築は、10年と言う事業サイクルを考えた中で作られる。この建物も、とりあえずの事業計画は達成したのかもしれない。
この教会が作られる前に、私自身で計画をさせてもらったチャペルがあったが、その建物は、数年前に、事業拡張のために取り壊された。事業としては成功したのだから喜ばなければならないのだが、精力をつくした建物が無くなってしまうのは、ちょっと悲しい・・・。
この日は結婚式は行われていなかったが、小さな子供連れのご夫婦が、とてもキレイに手を入れてくれている樹木の木陰で、教会の担当者と楽しそうにおしゃべりをしていた。
ここで結婚式を挙げたのかな・・・?だとすると、とても嬉しい光景だ・・・。
でも、あれだね。久しぶりに行ったら、アイスコーヒーくらいは出してもらえるような立場にならんとね・・・。
まっ、自分で設計したわけでもないのに、偉そうなこと言っちゃぁいけませんが・・・ブツブツ・・・・・。・・・苦労したんだけどな・・・。