« 2011年1月 | トップページ | 2011年3月 »

2011年2月の2件の記事

忍びの心得

110228005 世の中には、見えないものがある。遠くの世界ではない。あなたの身近に、すぐそばに・・・。

 毎日生活するその場所・・・。その場所のたった5cmの頭上、たった5cmの足元に、忍び寄る影がある。音もなく、気配もなく・・・。

 山間の小さな小さな村。木々の揺れ、葉のこすれる音・・・。ひっそりとたたずむ屋敷・・・。築100年を優に越えるその古民家は、この村に移築されて80年を越えるという。

 昭和ひとケタのその時代から、誰ひとりその場所に足を踏み入れた者はいない。今、80年前の埃がそっと舞う・・・。

 ぬきあし、さしあし・・・忍び足。忍びの心得・・・、音をたてぬ事。空気すら動かさぬように・・・。

 その男は風のように屋根裏に上がった。古びた梁の上を事もなげに移動する。伊賀者でも甲賀者でもない、限界耐力計算法を操る忍びの者・・・。一級建築士、てらもと・・・。彼の狙う新しい獲物は、小さな女の子を二人を持つ若い夫婦の屋敷。

 「おじいちゃんがむか~し昔移築したこの家を、歴史いっぱいのこの家を、リフォームして家族で楽しく住みつづけたい!!」。そんな依頼者の願いを兼ねる為、私はある忍びの者に連絡をいれた。伝統木造工法の改修を専門にする男、てらもと氏。

110228001 ぬきあし、さしあし・・・。決して依頼者に気づかれないように音を消しているのではない。ツルっと滑ったら、足元の天井をぶち抜いてしまうのだ。だいたい築100年を越える建物の梁なんて、信用できない。いつ“ボキッ”といくかわからない・・・。

 換気が良いというか、壁と屋根の取りあいに気流止めも無いので、屋根裏にはたっぷりの埃がたまっている。すばらしい空気だ・・・ゴホッゴホッ!まぁしかし、この時期の調査は、夏に比べると何倍もいい。夏の屋根裏は、軽く50度を越える。汗だくと息も出来ない程のホコリ・・・。今日は、快適さ!

110228002 床下にも潜らねばならない。事前の室内の調査では、北側の部屋の湿気がひどく、おそらく床下はカビだらけなんじゃないかと心配した。身動きが取れないほど狭い床下で、クモの巣とシロアリとグチャグチャの地面と戦うのだとしたら、想像するだけで恐ろしい・・・。

 しかし、意外にも床下は乾燥していた。冬のため虫もおらず、まぁトカゲのミイラが一体いたが、地面の砂もサラサラしており、ここもずいぶん快適だった・・・と言える・・・。

110228003 とは言ってもね。昔の建物は床下寸法の小さいものが多く、狭いところでは大引の下から地面まで20cm程度。顔を地面に擦りつけるようにしながら、足首の上下運動だけで前進する・・・。洞窟探検隊のように・・・。

 閉所恐怖症の人には絶対無理だな・・・。これが、夏で汗だくになって、クモやシロアリ、ねずみもいるような状況だったら・・・・・。ゴキもいるかも・・・。

 専門家のてらもと氏は、悠然とその状況下で調査をしている。基礎や土台、大引き・根太の状況、ツカやツカ石のピッチ、地盤の具合・・・。ノートを持って後ろから追いかける私に、考えられる補強方法を逐一説明する。

 こんな所で一緒に仕事をすると、ほんと気心がしれると言うのか、信頼しあえる仲になる・・・。身体をほんの少し持ち上げただけで頭をぶつけ、地面にキスする程の位置で打合せするんだから・・・。

 朝から何度か地震があった。震源地も近かったハズ。「ここでまた地震が来たら、一巻の終わりだな・・・」と話したら、「古民家の床下に潜る時は、覚悟して入る事!」と言われた。覚悟のいる商売なんだ・・・と思いながらも、ここまでやってこの家族を幸せに出来たら、おれもプロと言えるかなぁ・・・なんて、調子に乗った事を考える・・・。

110228006 伝統木造工法という束石の上に束立てをし、その上に骨組を組んでいく建物は、現在の一般の建物とは考え方が基本的に違う。だからリフォーム、改築も、その専門家に依頼するべきである。

 あ~、てらもと氏と友達でよかった。いいリフォームが出来ると思うよ。

 また手伝ってね。しかし今回は予算が無くてスイマセンでした。無理ばかり言ってこんな苦労させて、まったく忍びない・・・ブツブツ・・・・・。

 

| | コメント (0)

逃げない避難・・・?

110210001 なんだそりゃぁ・・・と言いたかった・・・。

 2010年の1月5日の朝日新聞の記事。突然古い記事を持ちだして物を申す・・・。

 昨今のゲリラ豪雨などから発生する水害による被害者・・・。逃げなければ助かった命があると、朝日新聞は一面トップ記事で書き下した。

 避難勧告が出た。家族を連れて家を捨て、逃げるのか逃げないのかは、結局は自身の判断による・・・。ご主人が仕事で留守中の大災害。身体の悪いお婆さんとまだ幼い子供3人を連れて、すでに川のようになっている道を逃げれるか・・・?

 日本にいったい何世帯のお宅があるかわからないが、状況・事情は一軒一軒違う。行政はその一軒一軒に合せた避難指示なんて出せないから、それでももちろん様々な事実を判断しながら、【人命を守る】という大前提のもと、避難勧告などの最善と思われる指示を出す。

 それに対して実際に避難するのかしないのか・・・。判断は当然各世帯の責任に任される。当たり前だ・・・!すでにヒザ上まで水が来ている外の状況だとしたら、子供や老人、障害のある人を連れて移動するなんて、それこそ集団自殺行為だ。

 一昨年になるが、市が主催する防災大学というものに1年間参加した。実際のいろいろな事例を知り、その上で自分の住む町で自分の家族と地域の人々の命をどのように守るのかを考える。

 そこで感じたのは、そんなセミナーに自ら参加する人でさえ、自己の判断が信じられないほど甘い・・・ということだった。

 「避難勧告が出た、あなたは逃げるか?」という簡単な質問に対して、「私は避難しない。」という人がとても多かった。「逃げられない状況・事情があるから・・・。」という理由じゃない。「なんとなく・・・。」「ウチは大丈夫だと思うから・・・。」「避難所なんかに行きたくないから・・・。」・・・・・。

 突然襲う災害のシリアスさは、その時にならなければわからない。水がどれほどの力を持ち、火と煙がどれほど人間の機能を簡単に奪い、地震から来る様々な被害がどれほど大きいものか・・・。

 経験のない事は、本当にわからない・・・。わからないから判断の材料にならない・・・。災い・被害などというものは、自分の所には来ない・・・。実際に避難勧告の指示が出たからと言って、自分に避難しろという意味じゃない・・・。

 こんな考え方を持った人が、上記の記事を見たら、どう思うだろう。「逃げない避難が有効なんだ!」と理解するかもしれない・・・。自分か持っていない知識と経験を棚に上げ、行政や有識機関の判断を勝手に解釈する材料になりかねない・・・。

 記事の内容を危機感を持ってちゃんと読めば、記事の言わんとする本当の意味はわかるハズだが、専門知識のない普通の人にとっては、【逃げない理由】が一つ増えただけじゃないか・・・。

110211002_2 この新聞記事は、その2ヶ月後、2010年3月9日の同じく朝日新聞の一面トップ記事。

 人々は、あふれる情報を正しく判断していると勘違いする。以前に比べ、豊富で正確な情報がより早く手元に来ているんだと安心し、情報に従わないクセに、自分は情報を正しく判断していると思っている・・・。あぁ、逃げる必要はないな・・・。

 この記事の時は、結果大きな被害はなかったが、だからといって人々の判断は正しかったのか・・・。

 更に言えば、情報を正しく判断しないクセに、テレビやラジオの情報が少しでも遅いと、不満を言う・・・。それが人なのか・・・。

 今回ものを言いたいのは、そういう人々の悪い癖じゃない。こんな記事をトップ記事に載せる、メディアの無責任さだ・・・!

 記事の内容はともかく、見出しに大きく【逃げない避難】・・・。この記事を見た人は、どのように意識付けられるだろうか・・・?【逃げない】、【俺は、私は、避難しなくて大丈夫!】とう判断が、根拠が薄いまま一番の選択肢になっていかないだろうか・・・?自分の勝手な判断で避難をせず災害に巻き込まれていく人たちに対して、メディアはどんな責任をとれるのだろうか。

 よくメディアは、「事実だけを報道する。」のであって、その後の影響を考えるのは、視聴者側の責任だ・・・というような意見をいう。しかし、事実だけを報道できるメディアなんてありえない。その報道をする人の感情・立ち位置が、必ず入ってしまう。そして、記事は必ず面白そうな方向、人が引き付けられそうな方向に向かって書かれていく・・・。

 【逃げない避難】だってあってもいい・・・。ただしそれは、自身の命と家族の命、地域等のその人を取り巻くいろんな人の命に責任を持てる人が判断する事だ。少なくとも影響力・誘導力を持つ有名新聞が、トップ記事で煽りたてるように書くことでない・・・。

 ・・・・・あぁ~、歳をくった・・・!またエラくクソまじめな事を書いてしまった・・・。いやだなぁ、ジジイになったなぁ~!!

 建築士という仕事は、【お客さんの幸せな環境を作る】という事と同時に、【その人々を様々な災害から守る】という事も大きな役割・・・だ!という事を、最近痛切に感じるようになった。まっ、これがジジイになったって事かな・・・。でもその感情から、一昨年から地域の防災活動を始めた。

 取り組んでいくにつれ、行政や関係機関の努力も目に見えるようになってきたし、逆にいかに一般の方々が・・・どれだけ良い人でも・・・危機意識がなく、地域などに対して責任意識が薄いかという事も感じるようになった・・・。

 まぁ、しかし、これもその人々が悪いという訳でない。我々も含めた各方面での資格者が(実際に資格はなくても)、社会の裏側でちゃんと支えていけば、多くの人が安全に安心に幸せに生きていけるのかな・・・と思う・・・。

110211003_2 東海地震、東南海地震等は、必ず来ると言われている。まっ、来るだろう・・・。その時までに、全ての住宅を耐震仕様にするなんて事は出来ない。・・・半分も、三分の一も出来ない・・・。だたし、その時に人の命だけは守り、その後少しでも幸せに生きていける事のサポートは、がんばっとれば出来るんだろう・・・。

 みんな、目の前の損得を考えないで!しっかりした建物を建てましょう!そのために少しお金を使いましょう!8帖の居間に50インチのテレビを入れる為に、柱の太さを小さくしないで~!!震災後の家族と地域の幸せを頑張って作りましょう・・・。

 設計料も削らないでぇ~・・・!私も幸せにして~・・・・・ブツブツ・・・・・。

| | コメント (0)

« 2011年1月 | トップページ | 2011年3月 »