あしおと
ジャリッ、ジャリッ、ジャリッ・・・・・。早暁の伊勢の神宮の、静粛で冷たい空気を小さく震わせる足音が聞こえる・・・・・。
朝の5時、神職の手により木と木を摩擦して火種をおこす【忌火(いみび)】を切ることから神宮の朝は始まる。
邪心なく、一心不乱に檜の板にヤマビワ製の心棒を激しく上下に摩擦させる。やがて小さな火種がでる。それをオガクズに移し、乾燥させた杉葉にかざすと炎が上がる。
1,500年余りのどの日も、朝夕の二度、こうして【日別朝夕大御饌祭(ひごとあさゆうおおみけさい)】という神々の食事の用意が行われてきた。
忌火を用いる神さまの台所は【忌火屋殿(いみびやでん)】といい、この清浄な火で神さまのお米を飯にふかす。魚や野菜も調理し、折櫃(おりびつ)という曲物の箱に入れ、それを辛櫃(からひつ)に納めて、御塩(みしお)でお清めし、神さまの食堂【御饌殿(みけでん)】に運ぶ。
神職は前日の夜から斎館で「おこもり」し、この【常典御饌(じょうてんみけ・・・・・日別朝夕~の事)】を行う。神さまのお食事時間は、朝8時と夕方の4時。一回の祭典は約40分。準備を含めると、365日の毎日6時間近くの時間をこのお祭りごとに費やす。
全ては【お祭りごと】である。神宮にはお祭りごとが多い。【神嘗祭(かんなめさい)】や【式年遷宮(しきねんせんぐう)】だけがお祭りではなく、日々これ、すべての神への行為がお祭りである。
ところが、これらのお祭りは、われわれ一般の者が目にする事は少ない。神聖なる場所にして、神職の手によって行われるからだ。われわれ伊勢生まれの人々は、子供のころは「伊勢にはお祭りが少ない・・・」と思ってきた。他の街のように、神輿を担いで男どもがぶつかり合うような祭りが少ないから・・・。
それでも【ついたち参り】という習慣がある。毎月一日の早暁、まだ夜露の残る神宮の砂利を踏みしめ、神さまに昨日までのひと月を無事に過ごせた事を感謝する。
とは言え、伊勢の人なら誰でも知っているこの習慣も、なかなか毎月この「お祭り」を行うという人には巡り合わない。ただし、商売をやっている方々には、毎月の気持ちの引き締めのためか、来られる人も多い・・・。
伊勢の神宮は、真冬でも朝5時から参拝が出来る。夏は4時。朝の、まだ森が眠るその時間に、ジャリッジャリッと神宮の砂利を踏む音は、我々にとってもすべての邪心を取り払い、初心を忘れることなく日々の全てを感謝する心を思い出させる。
という事で、先週になるが私も【ついたち参り】へ。別に毎月の行事ではない。事務所のある四日市からでは、なかなか足を伸ばそうという気にはなれず、用がある時だけついでに・・・じゃなくて、ついたち参りをして、ついでに用をする。
少し早いが内宮前のおかげ横丁で「笑門」のしめ縄を買い、【ついたち餅】をもらって帰る・・・というのが今回の用事。
【ついたち餅】とは、名物赤福が毎月一日の日に販売している、その月により趣向の違う特別のお菓子。どの月のお菓子も大好評だか、基本的に予約をしなければ買えない。知人に配るため、実家の母に予約をしてもらって、引き取りに来た・・・ついたち参りのついでに・・・・・。
和菓子を持って帰るんだが、お参りの後に和菓子を食わせるお茶屋さんで一服。赤福本店の隣にある【五十鈴茶屋】。抹茶セット600円。前に来た時は500円だったな・・・。
たしかこのお店は、私が子供のころに開店したんではなかったか・・・。昔の旅籠屋のようなたたずまい・・・実際に旅籠屋だったのかどうか知らないが・・・。神宮からゆっくりと流れる五十鈴川の水辺をめでる庭があり、とても落ち着いた時間が過ごせる・・・。人の少ない平日はね・・・。
この日は平日の午前中だったせいか、奥座敷には他に客がなく、一人でゆっくりお菓子とお茶をいただいた。【山茶花(さざんか)】というお菓子で、コシ餡を山芋入りの練りきりで包んだ、桜色のとてもおいしいお菓子だった。抹茶をいただいて、晩茶もいただく。
木造を勉強していると、どうしても数寄屋の建物に関心がいってしまう。決して高級ではないこれらの建物は、しかし職人の渾身の技術と昔ながらの建築のルールの下に、我々日本人を最も落ち着くところに導いてくれる。
私の出身中学は、「五十鈴中学校」。そうここは、実は地元中の地元・・・。こんなところで物思いにふけるなんて・・・。東大もと暮らし・・・いや灯台元暗しか・・・。昔悪さをした界隈で、こんな感動を覚えるとはね・・・。
でもねぇ、ヒゲのオッサンが一人でピンクのお菓子を食べてもねぇ・・・、あまりカッコはつかないなぁ・・・。昔の友人にでもあったら恥ずかしいような・・・。知り合いのおばちゃんもいたりして・・・。
まぁしかし、こんな人の少ない日もめずらしいし、だいたい子供が一緒だったりすると、なかなかこんなところ入れないし・・・。
今日は、ちっと落ち着いた内容のお話で・・・。師走の忙しさを、少し忘れたい・・・ブツブツ・・・あんまり忙しくないか・・・・・。
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