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2010年9月の2件の記事

朝の戦争

100927002 朝の戦争は、私の左腕につけられたスイス・ミリタリーの腕時計の針が、5時30分を示す直前から始まった。日の出前の雲ひとつない秋の空は、あの厳しかった残暑が嘘のように冷たい空気を張りつめながら、深い蒼色の中に輝く星の宝石を散りばめてたたずんでいる。

 そこにはすでに60名ほどの戦闘員が集まっている。なぜだろうか、彼らの顔には眠気のようなものはなく、ニコニコと笑いを含めたソツのない会話を楽しみながらも、どことなく各々が距離を取りあうような、そんな緊張感があった。

 私が到着して間もなく、私の後ろにも200名を超えるであろう勇敢そうな戦士達が、思い思いの武器を手にしながら集結していく。そわそわと膝や足首の屈伸運動をしながら2列縦隊となって待機するその勇者達は、各人が自分が長となる組織を代表し、肩に背負う大きな責任と戦い、そして過去の栄光と屈辱の物語を互いに交わしながら、その時が来るのを息を飲んで待っていた。

 この戦いには味方はいない。今、目の前で緊張を分かち合う男たちは、その時が来れば皆敵になる。男たちは、自分の目標を達成するため、その時を境に自分の眼(まなこ)に映る全ての生き物を敵とし、自分が生き残ることだけを考えながら突進する。

 私ももう、戦士と言うには歳を取ったかもしれない。全盛期を越えた身体は、筋肉が落ち、目の前に立つ勇猛そうな若い戦士と比べると、一回りも二回りも小さく見えることだろう。気がつくとそこには、私から見れば子供とでも言えそうな若い肉体ばかりではないか。いつの間に、世代交代がおこっていたのだろうか・・・。

 3年前の朝の戦い。私は、勇む心と鍛え上げてきたはずの筋肉とのバランスをコントロールできずに負傷した。私の右のあばら骨にはヒビが入り、全治には1ヶ月以上の月日を投じなければならなかった。

 しかし、痛みなど感じなかった。今戦うべきは、痛みではない。開門と同時に後ろから私を追い上げ、追い越していく、その若い血肉に渾身のエネルギーを燃やしながら駆け抜けていく猛者達であり、そしてこの老いゆく肉体にムチを打っても彼らに勝たねばならない、長としての責任感だった。いや、それは責任感だったのか。それとも、男としてのただの意地だったのか・・・。

 来るべき時間が迫る。戦士達の緊張感が高まっていく。ほぼ真東からその日の太陽が登りだした。今感じているのは、あの先程までの秋の空気の冷たさを唐突に引き裂くような太陽の暑さなのか。それとも燃え盛る若き戦士たちの、エネルギーの温度なのか・・・。

 幾人かの遅れてやってきた戦士達は、その場所のあまりの熱さに気を飲まれ、後ずさりしていく。もう敗者の顔だ。そう、いまごろ来たって遅いのだ・・・。我々はもう戦闘準備はできている。身体は老いたかもしれないが、戦いには慣れている。

 目を閉じる。勝つ、勝って生き残る。私の瞼の内側には、もうその時の、生き残って最後にペグを打ったその瞬間の、自身の姿しか映っていない。それ以外のものなんて映す必要はない。私は勝つのだ。勝つために、この日を迎えたのだ。勝って、勝って長としての責任を全うするのだ・・・!

100927001 男たちの緊張感がピークに達したその瞬間、・・・ついに、開門・・・戦闘開始・・・!今年も運動会の朝の戦争が始まった・・・・・。

 ・・・あそこに・・・シートを・・・敷けるのか・・・・・ブツブツ・・・・・。

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フジサトできた。

100910001 書きたいことは山ほどあるのに、時間が許しません。金はないのに仕事は多いのだ!

 しかし、おかげでまた一つ完成写真をお見せできる。伊勢市にて【フジサト動物病院リニューアル計画】が完成した。

 既存の建物(本館)のリフォームとオペ館の新築。2009年の5月に計画が始まった。やっと完成と言っても、新築オペ棟は4月に完成し、リフォームの本館も7月には完成していた。しかし、この【竣工写真】と言うのが、タイミングが難しいのだ。

 完成と同時に撮影すれば良いようだが、家具等の実際の生活に利用されるものが風景の中に入らないと、イマイチぱっとしない・・・。とは言え、例えば住宅だと、引っ越しをしてから家が本当に片付くまで、半年くらい掛かることも・・・。

100910002_2 かく言う私もそうだった。ダンボールの山を毎日のように仕事の後に片付けるのだが、初めはそれなりに楽しいが、7割くらい片付いたところで、収納場所の解決がつかなくなってくる・・・。仕方がないから新しく家具を買って・・・、なんて考えていると、平気で半年くらいは掛かってしまうもの・・・。

 相当有名な建築事務所であれば、新築時にダミーの一流家具を並べて写真をパシャっと・・・。どの家にもお決まりのYチェアーが置いてある・・・なんてことが・・・。

 とは言え、建築設計と言うのは、箱だけの形を作り出すものではない。頭の中でシュミレーションを繰り返し、施主の本当の動きや生活を何度も何度もイメージして答えを導き出すもので、だからこそ一つ一つ違うものができるのだ。だから、箱ができたからって、建築は完成していないのだ・・・(語ってしまった・・・!)

100910003 今回もまた、写真家の米田正彦氏により、素晴らしい写真を撮っていただいた。リフォームと新築が混ざり合っているので、彼には何度現場に来てもらっただろうか。申し訳ないぁ。

 その空間に来ていただければ、その空間の心地よさをわかってもらう事が出来ると思う。さらに長い時間をそこで費やしてもらえれば、一つ一つの形の意味がよくわかってもらえるだろう。しかし、私のような写真素人が撮った写真では、なかなか思いが伝わらない。

 ところが、米田氏の写真はどうだろう。私が伝えたいポイントをついてくる。元々彼は一級建築士の免許を持つ。実は、もう11年も前に、一緒に勉強し、一緒に試験を受け、一緒に合格した仲なのだ。だから、撮影前に、十分にヒアリングをしてくれる。なぜこの形になったのか、どこを見せたいのか・・・。

100910004 意外にも、私の方がなかなかハッキリとポイントを言えなかったりする・・・。いや、設計をするときは、お客様の動きや生活というような【時間】を想像しているので、静止画のポイントをうまく伝えられないのだ・・・・・。

 ところが彼は、そんなことはわかっているようだ。その空間に入り、使い方や用途を理解して、最高の絵をファインダーに入れてくる。つまり、写真家だって、空間の静止画を撮っている訳ではないのだ。

 流れる時間を感じ、その時間を表現しようとする。だから、撮った写真を修正したり、露出を必要以上に大きくしたりという工夫もする。

 最近は、彼も私のことをよくわかってくれている。あまりしゃべらなくても、何を撮ってほしいかわかるんだな、きっと・・・。

 こうなると、楽だなぁ・・・!だいたい、本物以上にカッコいいもんね・・・!おっと、イヤイヤ、すいません・・・。そんな楽するつもりで言ったんじゃありませんから・・・。施主様にもスイマセン・・・!本物は、写真以上に素晴らしいですから・・・ブツブツ・・・・・板ばさみ・・・・・。

 詳しくは、ここを見て!http://homepage3.nifty.com/agra/081012agraworks.html

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