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160年を再生するって

100422010 私には、何人か尊敬できる友人がいる。その一人が、伝統木造再生の専門家「寺本さん」である。久しぶりに、まじめに建築の事を書いてみたい。(もともと建物について書くブログだったんだが・・・・・。)

 リフォームの仕事を受けるようになって、とりあえず建築士なもんだから、構造の安全まで考えた提案の依頼をよくいただく。

100422002 築30年だとか築40年だとかいう建物は、古いだけでなく、実はちゃんと構造バランスを考えて作られていないことが多い。だから耐震診断を受けると、その多くが「倒壊の可能性が高い!」なんて結果が出る。

 それも、今の建築基準法にのっとった考え方が通用するなら、構造補強の提案は比較的簡単かもしれない。しかし、これが、築100年、150年とくるとね・・・。実は大変なんです。

100422003 今の建築基準法に基づく木造住宅の考え方は、とても簡単に言ってしまうと、しっかりした壁(耐力壁)を要所に作って家を固くして、上からの力や地震や台風の時の横からの力を、2階の壁→2階の床→1階の壁→土台→基礎へと伝えて、地面まで流してしまおうというもの。

 建物が固くてしっかりしていれば、それは壊れないし、中にいても倒壊が原因で死ぬことはありませんよ!っと、基準法は言っている。・・・その考え方の善し悪しは言わない・・・。

 しかし、昔は違った。建物を、柱と梁の接合部の強さとしなやかさで持たせましょう、という考え。

100422007 強さとは、「強度が高い」という意味とは少し違い、木の特性である「ねばり強い」という意味を強く含む。丁寧な大工の手仕事で複雑な仕口・継ぎ手を造り出し、建物は大きく揺れるが粘り強く、自然が作り出す大きな外力を、その構造自体で吸収してしまう。

 数寄屋の建物など文化遺産として残る古い木造建築は、壁が少ない。外壁はほとんどすべてが開口として開け放たれ、内部もまた襖を取り外せば、柱こそあれ、広大なスペースを作る。それは、もちろん家中に風を運び、夏涼しいだけでなく、木や左官材料などの呼吸を促し、長持ちをさせる。湿度の高いこの国の、最高の文化的遺産かもしれない。

100422005 その木の国【日本】の長い歴史と文化が造り出したとても理に適った工法は、日本人の生き方の方が変わってしまい、変化した。そして自然の流れなのか、人々は、「お上」になんでも責任を押しつけるようになり、お上はその責任を回避するため法律を整備する。

 もちろん法律には、根拠になる数値が必要になる。比較的立証が簡単だった「壁式」での木造建築の方が法令化される。結果、今、伝統木造工法の建物は理にかなっているのに、基本的に新築をすることは出来ない。

 建築士なら、だれでも耐震を考えた修繕計画が出来るかっていわれると・・・そうでもない・・・残念ながら・・・いや、恥ずかしながら・・・。

100422006 それは、耐震診断士の免許を有する者でも実は・・・・・。このような築100年を超えるようないわゆる【伝統木造工法】の診断・補修計画は、今の基準法に基づいた耐震診断の勉強では、答えは出ないのだ。

 これらの写真の建物は、亀山市の伊勢関宿にある文化遺産の改修。昨日、見学をさせてもらった。築160年強。一見したところ、痛みが相当激しい。

 この倒壊寸前とも言える伝統木造2階建ての町屋の構造修復を行っているのは、私の10年来の友人 寺本さんである。彼は、この10年、徹底的に伝統木造工法の補修・耐震を勉強し実績を積んだプロフェッショナルである。

100422004 正直、私の所見は、「壊した方がいんじゃないの?」と思った。それほど古く、材の痛みを感じる。しかし行政は、この文化遺産を取り壊してはいけないと決めた。もちろん文化を守り、継承していくためだろうが、まぁ、当然観光資源として利用したいんだろうな。

 取り壊してはいけないと決まった以上、どのように存続させるか、これが真の建築家の仕事である。寺本氏は、この風が吹けばオケ屋がもうかる・・・じゃなくて、柱がへし折れそうな建物と真っ向から向き合い、地道に、そして確実に計画を実行している。

 160年前の木材の腐食と虫食いの被害はタダものでないが、簡単に材を交換する事さえも許されないのが文化遺産。であるのに、改修後は公共の施設となるため、震度5強の地震にも耐えなければならない。

100422008 ひとつひとつの説明はここでは出来ないが、見えないように現代科学の武器も利用しながら、土壁が呼吸し、柱と梁の仕口によって建物に【ねばり】と【しなやかさ】を与える補強が加えられていた。

 完成は、来年以降になるらしい。今はまだ一度落とされた屋根も葺き直されてはいない。入札や予算の履行時期等の問題があるんだそうだ。つまり、役所仕事・・・。彼はそんなところとも戦わねばならない。

 先日も、築100年を超える古民家のリフォームのお話をいただいた。依頼をいただく前にあるハウスメーカーがリフォーム計画と耐震診断をしていたが、根拠のない数値が並べられ、しかもリフォーム後のプランでの診断でも「倒壊の可能性が高い」となっている。建築の知識のないお客様に、「お客様のご希望とご予算では、大きな構造補強までは行いません。」という設計者の言葉だったそうだ。

100422001_2  古民家(伝統木造工法)は現代工法の建物とは違う。ここに、さらに「誠実」が入らなければ、なんのために建物を、文化を残すのか・・・。

 寺本さんの【誠実】と【熱い思い】は、本物である。そこに生きる人のための、建物の再生を仕事としている。こんな建築家になりたい・・・。

 あぁ、しかし彼が友達で良かったなぁ・・・。また助けてももらわないと・・・。昨日はコーヒーおごっておいたからね・・・ブツブツ・・・助けてよ・・・・・・。

 

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