大工の家
友人の大工が、自分の家を建てた。初めに相談というか、建てたいんだという話を聞いたのは3年以上も前だった。着工までは、比較的スムーズに1年くらいだったと思うが、完成には、それから2年以上を費やした。大工だからである。
今朝から見学会をやるというので、あいさつがてら見に行った。基礎や建設途中から何度となく現場を見ているのであるが、「いつ住めるようになるんだぁ!」という気長な工事であった。
なかなか気合いの入った芯のある大工。大工としての誇りと意地で、ローコストではあるが、こだわり抜いた【自宅】がほしかったに違いない。訪れるものを驚かせ、そして感心させる【家】が出来た。
日本男児らしい気概のある男だから、純和風かと思えば、そうでもない。ただし、和の風格のいいところは、たっぷり入っている【木の住宅】だ。
さすが、大工。いったい何種類の木を使っているのだろう。聞いただけでも10種類は越えた。無理に良い木を使っているのではない。大工という仕事がら、いろんなところで安く手に入る良質材を、その場所と機能を使い分けながらメリハリを効かせて利用していく。紙の上で建築をする我々には難しい芸当かもしれない。
大きな引き戸の玄関扉をあけると、広い客人用と家族用の上がりガマチの向こうに、居間・キッチンが見通せる。立地条件や、実際に住む住人の考え方にもよるが、この建物は、玄関の外に広がる【近隣と地域】に対してオープンである。閉鎖感がないということ。建物とは出来るならばこうあるべきだと思う。
狭い土地に高い塀を設け、門を設け、自分の土地の境界線をハッキリ示しながら、「ここから先は、私の家だから、見るな、触るな、口出しするな!」的な主張を見せる家がある。カメラ付きインターホンで来客の様子を確認してから、気に入った人だけ家の中に招き入れるような家がある。煮物のおすそ分けもやりにくい・・・(わかりにくい例えでした)・・・。
大工さんは、自分の家を造るのは難しい。良いものを知りすぎているし、自分の家を安っぽいものにも出来ないし、また自分の家を造り出すと、その期間は支出ばかりで収入がないことになってしまう。(これは設計士だって、ある意味同じだけど・・・)
彼は、その葛藤を、ゆっくりと、そして確実に形にした。
一部の写真を、彼に断りなく勝手に載せる。許可も取ってないし、個人住宅なので、たくさんは紹介出来ないが、ともかく今日は久々に良い感動を覚えたので、少し出したい。
しかし、この家は、家具が入り、実際に生活が動き出さないと、本当の良さは見せられないだろう。建物その物が住人と共に生きているから。
今週引っ越しをするが、仕上げていない部分もいくつもある。和室の壁のジュラク塗りも、実はまだ中塗までしかしていない。1年は中塗状態で乾かさないと、スキが出来るから。
建物とは、住み始める瞬間が完成形ではないのだ。住んで行く過程の中で、家族と一緒にどんどん成長していく。これは、そんな理想の住宅なのだ。
大工の名前は【甲斐靖則】。四日市市西伊倉 甲斐建築設計。
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