なんにもない壁が大事なんです。
やっと、やっとテレビを買った。これまで1986年製のソニーの15インチを使い続けてきた。いかんせん、問題なく使えたのだ。まぁ、タマに音が勝手に大きくなったり小さくなったりするとか、画面の上下左右が切れてしまい、字幕スーパーやサッカーの点数が読めないなど小さな問題はあったが、生活に支障はないので頑張ってきた。2011年直前にはグッと値段が下がるだろうから、それまで頑張ってもらおうと・・・。
しかし、実はこの秋から電化製品も一斉に値段が上がるらしい。各社とも最近の原料高騰で苦しんでおり、性能を少し上げて、グッと値上げする。という事は、逆に今この瞬間は、旧型(今年の春・夏モデル)の在庫処分で、とってもお安いのだ!
今度のは32インチ!15インチから32インチへの変化は、大きい・・・。こんなに大きなテレビが必要なのだろうか・・・、とも悩んだ。しかし量販店の割引率をいろいろ検討すると、32インチが最もお得だ。最も売れる大きさなので在庫が多く、処分時の値下げ幅も大きいのである!今だ!一大決心!家族の笑顔!そのためだけに働いているんだ!行けぇ~ッ!!
・・・っと。また無駄遣いをしてしまった言い訳を、長々と公衆に対してやってみた。もちろん誰も代わりに払ってくれるわけではないので、別に遠慮することはないだけれども・・・。
さて、今まで【15】だった所に【32】が来るのだから、大きな問題は【置場】である。いい置き場所がない。一年も掛けた我が家の設計の時、リビングでの人の位置、窓の位置、家具の位置、薪ストーブの位置、照明の位置、外の光の方向、風の方向、家族の一人一人の興味や動線などなど、何度も何度もシュミレーションをした。
テレビの位置というのも、大事な生活要素の一つ。我が家では、あまりテレビを生活の中心にせず、薪ストーブを囲んで会話を弾ませようと、テレビは端の方に置いていた。しかし、家の居心地が良いと、テレビだってゆっくりゴロゴロ見たくなる。半年ほど前、我が家の【テレビ君】は、自身の姿が小さいのを良い事に、リビングの中央に踊り出てきた。そして今、彼はその体を倍以上の大きさに変化させようとしている。
テレビに限らず、新しい家具や電化製品を買ったり、模様替えをしたりするとき、配置にいつも苦労する。実は、その自由度を上げるのは、なんにもない壁の存在である。
窓があったり、作りつけの本棚があったり、換気扇があったり、スイッチ類があったり。壁にはいろんな仕事がある。家を地震などから守るのも壁の仕事だし、最近では調湿したり臭いを取ったりと、なんでも屋さんの様相になり、【壁さん】はとても疲れている。
広々させたいから壁を少なくするとか、せっかくだからココもアソコも本棚を付けようなんていうのは、人間の我がままだ!・・・とは言っても、人間さんが自分の都合で家をつくるのだから、事前に【壁さん】のことをたっぷり考えて作ってあげてはどうだろう。【壁さん】をうまく利用し、共存する、そんな設計をしてあげよう。
眺望のために壁をどんどん取り払い、大きなサッシをつけたい。そんなお話をよく聞く。一つの意見だけど、程よい小さなピクチャーウィンドウで最高の景色だけを切り取ってあげて、壁の負担を少なくする。(壁にはいろんな力が掛かっているので、出来るだけ面積を大きくして負担を少なくしてあげると良い。)風景を美しく切り取り、電柱やお向かいの洗濯物まで景色に取り込まない。
絵を飾る時、部屋の中に広い壁の面があると、とても絵が活きる。壁そのものが、大きな額縁になる。
毎日どんな瞬間も止まることのない太陽と影。彼らを美しく室内に映し出すにも、広い壁があるといい。壁際にダウンライトを設置しても、壁全体が絵になる。今度は壁は、キャンバスになる。
最近どっかの建築雑誌で、建物の最高の状態は一つしかないから、すべての家具は作りつけが良い!なんていう建築家の話を読んだ。しかし、それはどうだろう。建物は住み手と一緒に変化し、成長していくもの。変化に対応できるものじゃないと・・・。その時【大きな壁】は、 【その障害】ではなく、設計しだいで【その大きな価値】になる。
結局、我が家のテレビ君は、体は大きくなってもその場所を動かなかった。人間さんの方で工夫してくれと言うので、仮にも建築家の私だから、スケールとインパクトを振り回し、なんとか居場所を確保した。最近のテレビはLANまで付いている。見えないように配線をするのは大変なのよ・・・!
ちなみにこれは、設計ミスではありません。家と家庭の成長なのです。
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